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-- 2005年度の造りでの話 -- -- 2004年度の造りでの話 --

1.杉錦の酒造りについて

2.
生もと・山廃仕込みについて

3.生もと仕込みへの挑戦

4.2005年度の酒造りの課題

5.清酒の“オリ”について


1.
生酒と一回火入れ酒について

2.山廃純米酒、二年目の挑戦

3.全国鑑評会

4.静岡県鑑評会
-- 2003年度の造りでの話 --   -- 2002年度の造りでの話 --

1.
山廃純米酒に挑戦

2.静岡県鑑評会
    (大吟醸麹は如何に作るか


3.静岡山田錦で純米吟醸に挑戦

4.全国鑑評会

1.
鑑評会の話(静岡県鑑評会について)

2.鑑評会の話(全国鑑評会について)
2005BY製麹作業風景 大吟醸原酒2005

-- 2005年度の造りを終えて --
杉錦の酒造りについて

 清酒は既に長い間、凋落傾向に歯止めが掛からず、低迷から脱する事ができません。
原因はいろいろ議論のあるところですが、やはり単純に考えれぱ多くの人たちが清酒は飲んでも美味しくない、魅力がないと感じているからに違いありません。

 けれども日本の長い歴史と伝統の中で育ってきた民族の酒である清酒には必ず、自ずと備えている、味わいと、美味しさが可能性として宿っているに違いありません。

 現在の清酒が業界の長年の努カにもかかわらず、なかなか元気にならないとしたら自分たちの造っている清酒の多くがまだ清酒の持つ本来の味わいを充分に実現できていないのではないかと考え、酒造りの方法を探っています。

 その視点から弊杜が最近、最もカを入れているのが山廃と生もと造りの酒です。吟醸酒は近代の酒として、昔の酒にはなかった吟醸香と爽やかで飲みやすい酒質によって、清酒の可能性の一つを実現しました。良い吟醸酒を口にしたことのある消費者は、日本人全体の中ではまだまだ小数派でしょうから、良い吟醸酒を造り、紹介していく事で清酒のファンはまだまだ開拓できるはずです。

 しかし、良い吟醸酒はどうしても価格が高くなり、蔵元にとっては手間がかかり、コスト高の割には粗利益が少なく、たくさん造れないという欠点があります。山廃、生もとの酒は酒母造りには手がかかりますが、麹は吟醸麹にする必要もなく、原料米は高精白にしなくてもいいので、普段飲む酒として価格が手頃で、飲みあきしない味わいのある酒が造れると思います。弊杜は山廃、生もとの造りはまだ3年の経験しかありませんが、今後最も力をいれていきたいと考えています。

カプロン酸エチルの高い酵母は今年より全廃し、静岡酵母で吟醸酒を造っています。

吟醸酒、純米酒は原則、活牲炭は全く使用しません。酒本来の持ち味を生かしたいと思います。

清酒の他、味琳、焼酎も造っています。焼酎は現在、試験製造、限定試験販売中です。

生もと 山廃仕込みについて

 昨年の末に静岡の山田錦60%の純米を生もとで仕込み、原酒の中取りを出荷しましたところクセのない酒質で、 静岡吟醸酵母のHD―1の香りもほどよく出て好評でした。同じく協会7号と玉栄の組み合わせの山廃純米も+6程度まで良く発酵しクセのない酒になりました。山廃仕込みを始めた頃は特に酒母ではヨ―グルトのようなジアセチル臭や酸敗したようなクセの強い臭いがかなりしたのですが不思議とそういう臭いが少なくなってしまいましたが、理由は解りません。環境中の菌が変化してくるのでしょうか。次期の酒造りではクセのない純米吟醸に挑戦してみようと思います。

 一方昨年の造りでかなり糖分を残して発酵が止まり、酸も多くジアセチル臭がして失敗作だと思っていた純米酒は秋以降、熟成が進むと深い味わいとなりきれいな吟醸造りではできないコクのある酒になったと思います。この辺が生もと系酒母の造りのおもしろいところで今度は酵母無添加の山廃純米酒をやって見るつもりです。

 なんとか山廃や生もと仕込みの酒もできるようになったのですが、これらの酒母では不可欠という事になっている亜硝酸反応は出たり出なかったり安定しません。 ただ亜硝酸反応が出なかった酒母でも優良酵母をたくさん添加するせいか発酵はまずは順調です。一方亜硝酸がしっかり出て発酵も旺盛だった酒母を用い、踊りもしっかり取ったのに後半の切れが悪くなるモロミもあります。その辺りをしっかり制御できるように更に経験を積みたいと思います。

 今年は地元のグル―プが持ちこんだ山田錦の90%精白米を使った山廃純米も一本仕込みました。まだ壜詰めしてありませんが酸が2.4ほどで日本酒度は+2で締まりのある味です。この酒はほぼ明治初期の造りと同じ原料を使った事になり秋以降どんな味になるか見ものです。

 平成16年5月現在販売している山廃 生もとの酒は2種類です

  -- 玉栄 山廃純米 --

日本酒度:+6   酵母:協会7号
酸 度:1.7   アルコ―ル:15.6度  
玉 栄60%精米

希望小売価格:1,800ml : 2,520円
            720ml : 1,365円(税込み)

 上記は現在出荷している酒の成分でかなりすっきりした印象の辛口です。秋口からは少しエキス分のある、味の のった酒を出します。
   山廃純米酒

    
  -- 山田錦 生もと特別純米 --

日本酒度:+6   酵母:静岡HD―1
酸 度:1.6   アルコ―ル:15.6度 
山田錦 60%精米

希望小売価格:1,800ml : 2,630円
            720ml : 1,470円(税込み)

 玉栄山廃と較べると少し酸味がおだやかで、味の幅がある感じがします。山田錦と玉栄の違いがでているのではないかと思います。
   生もと・特別純米



生もと仕込みへの挑戦(平成17年12月15日の話)

 今年も本醸造から始めて大吟醸、純米吟醸、純米酒、特別本醸造と進め年内予定の14本を仕込み終わりました。12月初旬より大吟醸の上槽を開始し順次壜詰めにかかります。吟醸系の酒については特に壜詰め、火入れまでの期間を短めにする事が高品質の維持に不可欠だと考え、直ぐに壜詰めをおこなっていく計画です。

 山廃酒母の経験をある程度積んできたので、今回は「もとすり」を行う生もとに挑戦してみました。経過は順調でやや辛口で酸味があり、山廃的なクセは少ない酒になると思います。静岡酵母HD-1は静岡型の吟醸酒を造る時は麹のハゼ廻りを少なくしないと酸が多くなるのが難点なのですが、逆にハゼを廻す事によりしっかりとした酸味とほのかな吟醸香のある酒にしたいと考えています。

生もと酒母の仕込み (すり潰し作業)
 


2005年度 酒造りの開始(平成17年10月1日の話)

 
9月8日に今期最初の蒸し米を麹室に引き込み、酒造りを始めました。
 今年の目標としましては、

 @純米吟醸、吟醸酒を味のしまったしっかりした状態で壜詰めまで完了する事。
 (例年の事ですが今年は更にその様な意識を持って行いたいと思います)

 A山廃酒母の酒について昨年までの経験を生かし発酵力の強いもろみへと確実に導けるようにする。

 B生もとに挑戦する。
              以上、3点を主な課題にして酒造りに挑みます。


清酒の“オリ”について


   ---  一般的に清酒に“オリ”が生じている要因は三つに分けられます---


@. しぼりたての清酒に酒袋から漏れたモロミの米の小さな破片が混ざっている状態です。通常はこの酒を静置しておいて“オリ”が低部に沈降してから上澄み部分を採るか濾過によりこれを除去します。最近は「オリがらみ」といってわざとこの“オリ”の部分を残した商品もあります。


A. 酒に乳酸菌が繁殖してその菌体が壜の底に沈殿した場合です。この場合は酒の風味が劣化して酸味が多くなります。生酒ではこのリスクが多くなります。清酒に繁殖した乳酸菌では食中毒の危険はありません。


B. 清酒中に溶けこんでいる蛋白質が変性して生じた“白ボケ”が凝縮して沈降した“オリ”があります。この“オリ”が清酒に発生する事情は上記の二つより少し複雑ですので詳しく説明いたします。

 しぼったばかりの生原酒には、麹に由来するアミラーゼなどの酵素蛋白質がたくさん溶けています。生酒を濾過すると透明になりますが、その後タンクに貯蔵する時“火入れ”と言って酒を65℃位に加熱するとこの蛋白質が熱で変化して水に溶けにくい性質に変化します。そうすると酒がうっすらと白くにごった状態になります。この状態を“白ボケ”と言います。この“白ボケ”はさらに時間がたつとだんだん集まって沈殿して“オリ”になります。しかし普通はこの変化は酒蔵の貯蔵タンクの中でおこりますので、白ボケの酒を壜詰めするまえに“オリ下げ”といってゼラチンなどのオリ下げ剤と絡めてオリを沈降させた後、濾過して壜詰めすれば酒は透明になりその後オリが生じる可能性は少なくなります。

 ところが近年の清酒造り、特に吟醸酒ではしぼりたての原酒のもつ吟醸香をはじめとするフレッシュな風味を損なわず、さらに酒を若かく保つ目的でタンク貯蔵をおこなわず直接壜に詰め、この時一回火入れをおこないます。その場合壜の中で酵素蛋白が変性して“白ボケ”となりその後凝縮沈降して“オリ”になる事があります。吟醸酒では麹の使用量が少なくまた麹菌を少量しか繁殖させないので酵素蛋白も少なく“オリ”になる可能性は低いのですが味のある純米酒を同じように一回火入れで壜詰めしますと、今回のように“オリ”となる可能性が高くなります。 “白ボケ”が発生してさらに“オリ”として沈降するまでの期間は酒により差があり通常は一年半から二年くらいかかります。この度“オリ”が発生した酒はもともとエキス分が多いため早めに発生したと考えられます。


 上記のように“白ボケ”や“オリ”の発生を防ぐためには二回火入れで壜詰めしたほうがいいのですが、一回火入れの酒のほうが酒の持って生まれた風味や味わいをより豊かに残せるため弊社では一回火入れの壜貯蔵を採用しています。


-- 2004年度の造りを終えて --
生酒と一回火入れ酒について

 生酒は特別な商品としてのイメージが強く需要がありますが、実際には生酒の品質が火入れ酒を上回るのは、良く管理しても一ヶ月程度のようです。その後は香りは吟醸香より生老香が強くなり、味はだれて締まりがなくなります。しぼりたての良い風味を上手に残して熟成にも適すようにするには、活性炭は使わず素ろ過をして早めに一回しっかり火入れをするのがベストだと思います。
 一回火入れの吟醸酒は、冷蔵庫で保存すれば何年でも賞味は可能だと思います。(但しカプロン酸エチルの強い酒を除く)

 製造者としては生酒で出荷する方が火入れの手間がないのですが、今年からお客様の口に入る時の品質を考えて、高級酒は原則火入れ出荷致します。


山廃純米酒二年目の挑戦

 山廃純米は昨年の造りに、初挑戦で一本仕込みました。その酒が幸いにも雑誌[ダンチュウ]に取り上げてもらい、高く評価して頂きましたがまだまだ勉強中です。

 今年は3本の山廃酒母を立ててみました。仕込み時の温度管理がおおまかでも、まず間違いなく出来上がる速醸酒母とは異なり、山廃酒母では初期にしっかり低温を維持しないと少し野生酵母が侵入して来るようです。

 私の蔵も参加している「蔵元交流会」で昨年の夏に講義をされた永谷先生によれば、先生の若い頃の灘では野生酵母の作る酢酸エチル系の香りが「ぷ〜ン」として、酸味のしっかりした山廃の酒が良しとされていたそうです。「今の時代も野生酵母の個性の出たワイルドな酒を造ってみたら面白いのではないか」と、提案して頂きました。
 実際に山廃を何本かやってみたところ、図らずもそんな風味を少し感じさせる酒も何本か出来ました。おそらく、仕込み時の温度が少し高くて亜硝酸の消失が早かった為と思われます。

 杉井酒造の山廃酒母は冷蔵庫の中で立てますが、冷蔵庫を使わなかった時代は今より気候が寒冷だったとしても、温度管理は難しく、永谷先生の言われた様な酒が多かったのも頷けるかなと思いました。

 今年出荷します「山廃純米酒」は昨年の酒より味ののったタイプになりました。一回火入れで壜詰めしており、まだ新酒独特の生香や麹の風味が強いので熟成が進んでいた前回の酒とは雰囲気が異なります。山廃の酒としは、もう少し熟成した方が飲み頃だと思います。日本酒度は高くありませんが、山廃の酸味とコクがありますので甘味と辛みのバランスはよいと思います。

 昨年の酵母は協会7号でしたが、今年は静岡NEW−5を試してみました。どちらが山廃の酒に適しているのかは、熟成が進まないと判断ができなと感じています。

 前にも言ったのですが、山廃の酒を造ってみて洗練された吟醸酒と比べると、少しクセがある酒になり易いのですが、独特の力強さと飲み飽きしない酸味が有り、低迷ぎみの清酒業界を復活させる次の商材として大いに可能性を感じています。
 今後、「生もと」を含め、経験を積んで技を磨いていきたいと思います。


全国新酒鑑評会(2004年度)

 広島で行われました全国新酒鑑評会で「金賞」を受賞することが出来ました。これで3年連続の金賞受賞、入賞は4年連続となりました。

 現在の全国鑑評会入賞酒の主流を占めるカプリン酸エチルの香り主体の酵母で造った吟醸酒には批判もあるのですが、それでも金賞受賞を目指して吟醸酒を造る事は吟醸造りの技を磨き、蔵人全体のレベルを上げる効果があると考えて取り組んできました。特に当ったり、外れたりではなく安定した酒造りができるようになる為には鑑評会への出品はいい訓練になると考えています。

 全国鑑評会での審査は昨年よりカプロン酸エチルの高濃度の酒ばかり入賞する傾向を是正する為、前もってカプロン酸エチルの濃度を測定し、その濃度別に酒を並べてきき酒するようになりました。今後は入賞酒の香りの傾向が変わっていく事が予測されます。杉錦では今年もM310という酵母で出品酒のモロミを立てましたが、酵母の配布先である明利酒造の高橋先生も最近の全国鑑評会の傾向に配慮さらてか例年よりカプロン酸エチルの生産量が低い酵母を配布された様です。


静岡県清酒鑑評会(2004年度)

 審査の4日前に「杜氏持ち寄り会」といって全蔵ではないのですが、県内の蔵元から杜氏さん達が出品予定の酒を持ち寄り審査をして、本番の鑑評会の参考にする会がありました。この時は吟醸部門に出した酒が15番目位、蔵元別に見ても7番目位だったのですが、同じ酒が本番では2位の成績でした。逆に3年前は「杜氏持ち寄り会」で最高点だった酒が本番の審査では入賞外(19位)という事もありました。

 静岡県の鑑評会は、出品酒が全体として高いレベルで揃っているので、紙一重の僅差の戦いになっているのだと思います。またカプロン酸エチルの香りが多い酒を評価しませんので(4ppm以上は入賞が困難)出品する側のセンスと、評価する審査員のセンスの微妙なバランスの上に順位が決まってくるのだと思います。鑑評会の結果というのは蔵元や杜氏さんにとって気になるものですし、日本酒ファンや酒業界の方も注目して下さる様になり、多くの注視の下で真剣勝負をするというのは業界全体の酒質の向上にとって大変有効だと思います。

 一方、これだけ全体のレベルが揃ってくると、鑑評会出品酒の僅かな酒質の差より、実際に壜詰めされてお客様に届く酒の品質管理と酒質のセンスが本当の競技の場という事になります。


-- 2003年度の造りを終えて --
山廃純米酒に挑戦


 - 山廃酒母とは -

 全国的に、山廃酒母や生もとで造った酒が少しずつ増えているようです。酒造りの最初の工程として、酵母を増殖させる酒母(もと)は現在ほとんど速醸酒母といって仕込みの時乳酸を添加することにより、液を酸性にして雑菌の繁殖を抑えておき、その間に同じく添加した酵母を増殖させます。

 この方法は、安全で操作が比較的簡単で、確実に目的とする酵母を繁殖させることができ、出来上がった酒は、クセがなくすっきりした風味であることから、現在の酒造りでは一番広く採用されているほか、吟醸酒の製造に適していると言えます。


 一方、生もと系の酒母では、仕込み時に乳酸の添加はおこなわず、自然に生えてくる乳酸菌の造る乳酸で酸性を作り出し、その後酵母を添加します。速醸酒母が2週間で出来上がるのにたいし1ヶ月も時間がかかり操作も大変になります。できた酒は、深い酸味に富み、味に幅があり、秋あがりすると言われています。山廃酒母は、生もと酒母製造で行われる「山おろし」という米をすり潰す操作を廃し簡略化した方法です。



 - 山廃酒母に挑戦する理由 -

 酒造りの教科書には、現在はあまり使われなくなっているにもかかわらず、山廃酒母の製造方法の解説が詳しく載っているのが常です。

 そして硝酸還元菌により生じた亜硝酸により、野生酵母の増殖を抑えながら、次に生えてくる乳酸菌で酸性の環境を作り出しその後
目的とする酵母を増殖させるこの技法が、近代化学や微生物学のない時代に、先人たちによって生み出された秀逸な技術であるとの解説が書いてあります。それらを読むと酒造りに携わる者として、ぜひ一度やってみたくなります。

 また、蔵元として酒造りに関わるようになって以来、品質向上のため、全ての商品について精白歩合を上げ、発酵温度を低くし、製品を冷蔵庫で壜貯蔵にするなど、近代的な吟醸酒造りの基本に従って努力をしてきたつもりですが、普通の純米酒や本醸造酒のように強い吟醸香を期待できない酒については、別の切り口でおいしさを追求できないかという思いがありました。


 - 山廃酒母を造ってみました -

 実際の山廃酒母造りですが、昨年練習のために酒造りの終わった5月に一本造ってみました。この酒母は試作している米焼酎のもろみに使ってみましたが、発酵は良好でした。

 この時の経験から、5度〜8度くらいが適温とされる山廃酒母の仕込み温度ですが、低すぎると米の溶けが悪くなる事。亜硝酸をしっかり効かそうと考えて、硝酸カリを添加しすぎると亜硝酸反応が強すぎていつまでも消えず、添加酵母の繁殖が遅れる事。また同じく乳酸菌の繁殖も抑えられて、酸がなかなか出てこないという経験をしました。今回は前回の経験を踏まえて仕込み温度、亜硝酸反応を調節してほぼ教科書にそった経過をたどる事ができました。


 仕込み後、数日たった酒母は、麹の酵素で米が溶けて生じる甘味と乳酸の酸味で甘酸っぱくておいしい味がします。山廃酒母では速醸酒母とくらべ、この時、旨みとコクがあって特においしいです。酵母は協会7号の泡無しを添加しました。


 - 山廃酒母を使った純米酒のモロミ -

 この山廃酒母を使って、55%精白の滋賀玉栄(たまさかえ)という米で、純米酒を仕込みました。山廃酒母で育った酵母菌は、細胞膜を作っているリン脂質が速醸酒母と異なり、もろみの後半で高いアルコールに耐えてよく発酵するといいます。

 今回の純米酒では、従来の静岡型の造りが念頭にあって留めの掛米を3時間ほど硬化させてから仕込んだので、アルコールが17.5度くらいで米の溶けがほぼ止まってしまい、山廃モロミでの終盤での発酵の強さはよくわかりませんでした。

 山廃酒母は、前半で硝酸還元菌や乳酸菌などを繁殖させるためか、表現が悪いですが少し腐敗したような臭いがします。この臭いと酵母のつくる芳香が混ざって、過熟して腐りかけた果物を思わせる香りがしています。この香りは、モロミになってからも少し感じられました。また搾った直後の酒にも、わずかですが感じられました。

 
 - 山廃純米を製品にしました
 -


 出来上がった山廃純米の原酒ですが、日本酒度は+5くらい、酸は2.0くらいの辛口すっきり型で、深い酸味のある酒になりました。

 粕歩合は53%と米は溶けなかったので、
製品化にあたって活性炭は完全に無添加で、素ろ過のみ実施して、割り水後一回火入れの壜貯蔵にしました。製品の酸度は1.7くらいです。モロミでは感じられた山廃のクセは、製品になると殆どわからなくなりました。

 お客様に試飲して頂くと、だいたい「山廃っぽくないね」という評価です。個人的には、深い酸味は山廃でなければ出ない味ではないかと感じています。エキス分が少なくで酸味の効いた味は、こってりとした生原酒より、夏に飲む酒としても適性があると思います。

 来年以降も、従来の商品を少しずつ山廃化していくつもりです。なおこの山廃純米は小売価格、税込み
2,520円/1.8Lで販売を始めました。



静岡県清酒鑑評会

 今年の静岡県清酒鑑評会は、昨年と同じ審査方針と方法で行われました。審査員を努められた松崎晴男さんによりますと、上位4社の酒で競った決審は、大変な接戦でなかなか優劣をつける事ができなかったとの事でした。

 静岡県の清酒鑑評会は、前に説明しましたように9号系の酵母の酒で競うので、入賞酒のカプロン酸エチルは多くても3PPM代の後半で、香りが高ければ上位入賞というわけにいかないのが、出品する側からみて難しいところです。一般公開では順位別に酒が並んでいますが、そこできき酒すると、先入観もあるのかもしれませんが、上位4社のなかでもトップの忠正は、カプロン酸エチルではない含み香が特に豊かですばらしい酒だと思いました。杉錦は吟醸の部で千寿と同点の5位入賞、純米の部で4位入賞することができました。


 昨年はカプロン酸エチルの高いM310の酒を、10%ブレンドして入賞を逃したので、今年は静岡酵母のHD−1単独の酒で臨みました。純米の部は同じく、静岡NEW−5とHD−1のブレンドで出品しました。

 種麹には、昨年と同じく樋口HiGという、グルコアミラーゼを高生産する菌を使いました。これを使うと平均値で、グルコアミラーゼが
200単位、αアミラーゼが400単位と、極めてツキハゼ型の麹ができます。

 今年は、この麹とHD−1酵母で静岡県の上位入賞、またM310酵母と組み合わせて名古屋国税局鑑評会、吟醸の部2位入賞。全国鑑評会で金賞の成績を上げる事ができたので、この麹はまずまず合格点だとは思います。しかし、M310酵母を使った酒でも全国鑑評会のきき酒にいきますと、さらに深い感じの香りのする酒がありました。樋口HiGのような特殊な菌を使わなくても、素晴らしい酒を造っている杜氏さんがいらっしゃいますので、麹つくりはまだまだ勉強していきたいと思います。



静岡山田錦で純米吟醸に挑戦

 全国的に、山田錦を各地で栽培するようになっています。静岡県JA大井川にも、焼津地域酒米研究会という組織が数年前にできました。会員農家の方は現在10名で、今年の作付けは山田錦935a、五百万石624a、また昨年の集荷は山田錦531俵 五百万石425俵でした。できた酒米は、静岡県内約10の蔵元で酒になっています。


 田植え、夏の田んぼの見学、稲刈り、反省会等の農家と蔵元の交流会をJAが設定してくださり作付面積も年々増加傾向です。2003年度造り‐タンク

 私の蔵では、今年初めて静岡山田錦を50%精白した純米吟醸を、3本(700kg)仕込んでみました。

 実は前年、造りの後半になって、ある取引業者から兵庫の山田錦が余っていて安く買えるというお話を頂き、試しに買ってみました。しかし、届いた50%精白の白米は割れが多い物でした。それでも気をとりなおして、造りの最後に手を抜かず、しっかりした仕込みをしようと造りに臨みました。モロミの経過は順調でしたが、一番最後にやや切れが悪くなり、酒には少しオリのクセがでました。この時の米と酒の品質の関連は、はっきりしませんが、安物買いにはリスクが伴うと反省しました。

 静岡の山田錦は、兵庫の山田錦とくらべ価格的にはそう安いわけではありません。しかし、いろいろな業者を渡ってくる米とくらべれば、安心感があります。


 今年の造りの静岡山田錦3本のモロミはいずれも順調で静岡型の味のしまった純米吟醸になりました。2004年の6月現在蔵元から出荷しているのは、この静岡山田錦の純米吟醸です。



全国新酒鑑評会

 今年も5月27日に、広島の全国新酒鑑評会の一般公開へ行ってきました。前にも書いたとおり、全国新酒鑑評会で金賞を受賞する酒の大多数が、カプロン酸エチルという香りの成分が非常に強いため、華やかですが欠点として飲み飽きしやすく、熟成すると劣化して、嫌な風味がでてくるという性質をもっています。この点の反省から、今年は審査方法が少し変わり、出品酒は予め行われる香りの化学分析で、カプロン酸エチルの濃度で3区分に分け、それぞれの区分別の審査をおこなう事になりました。実際の区分分けのボーダーラインは公表されていません。 

 私は150銘柄くらいしか、きき酒していないのですが、今年この審査方法の変更によって、従来と較べカプロン酸エチル主体の酒の出品が減り、9号系の酵母の出品数が増えた様子はないです。金賞の酒は、昨年までと同じくカプロン酸エチル主体の酒が多かったです。その中で9号系の酵母と思われる酒で金賞、あるいは入賞の酒も散見され、今後少しずつ傾向が変わってくる事は予想できます。


 なお杉錦では、このカプロン酸エチル主体の酒は斗壜取りした原酒を壜火入れして、500mlで360本ほど鑑評会出品酒として、限定出荷しました。残りは全てブレンドに使いました。ブレンド比率は、大吟醸で3%程度とし大半は特別本醸造へ混ぜてしまいました。昨年の市販大吟醸は、カプロン酸エチルの酒が35%程度ブレンドしてありましたが、今年はHD−1主体で、ほとんどカプロン酸エチルの風味は感じないと思います。



-- 2002年度の造りを終えて --
鑑評会の話 (全国鑑評会について)

  全国新酒鑑評会で 金賞 受賞しました。


 酒類総合研究所主催の、「平成14酒造年度全国新酒鑑評会」の結果が、5月下旬に発表になりました。昨年の入賞にひき続き今年は、[金賞] を受賞する事ができました。

 この全国新酒鑑評会は、日本酒のコンク―ルの中では最も権威のあるもので、金賞の受賞はたいへん名誉な事とされています。全国は清酒の醸造をしている蔵は、1,500場ほどありますが、今年はその内1,065場が出品し、525場が入賞、入賞の内286場が金賞になりました。金賞率は、26.8%で数字の上ではそう狭き門には感じられないのですが、蔵元としては毎年金賞を取り続けるのは、なかなか難しい事です。

 金賞を取れる酒を造るという事のなかに、米洗いから蒸し、麹作り、もろみ管理、搾り、火入れまで酒造りの基本作業を全て合格点でこなす事が必要ですから、金賞を目指す事により、その蔵の酒造技術が向上すると言えます。

 今年も広島の一般公開へきき酒に行ってきましたが、開場の10時には、数百メ―トルの長蛇の列ができていて、この鑑評会にかける酒造関係者の熱意と関心の高さを感じました。



 そういう訳ですから、蔵元としては金賞を取る事により、自社の製品の技術力を多いにアピ―ルでき、特に普段の宣伝広告費用を掛ける余裕のない小規模酒蔵にとっては、自社の商品の優秀さを知っていただく、大変有効な手段となります。

 しかし、確かに金賞を取る蔵は、それなりの技を持っているという事になりますが、実際にお金を払ってお酒を買われる消費者の皆様は、金賞に惑わされず、冷静に商品を選ぶ事が大事だと思います。それは、この鑑評会に出して審査されるのは「出品酒」であって、実際にその蔵の大吟醸の市販酒として販売される商品とはいくらか異なるからです。出品酒はよくできた大吟醸のもろみから、特別な方法で搾り、特に気を使ってビン詰めして出品しますので当然高品質になる訳です。だからと言って、実際に商品として出荷する酒に手を抜いては、金賞を受賞といっても高品質の市販酒にはなりません。

 また、現在の金賞受賞酒の主流を占めるカプロン酸エチルの強い酒は、審査で味わって吐き出すにはいい酒だが、実際に普段の食生活の中で飲むには飲みにくい酒、あるいは品質が劣化しやすい酒という批判もあります。その点について静岡県の蔵元は、実際に市販する酒も酒袋で搾り、火入れもびん火入れという手のかかる方法で高品質を維持すよう努めています。私の蔵もそうしています。出品酒は、金賞の取り易いカプロン酸エチルの強い酵母の酒で出しますが、市販の大吟醸は、穏やかな香りの静岡酵母を70%ブレンドして香りは抑えるようにしています。



 以上のとおり、全国新酒鑑評会の金賞には、最近いい意味でだいぶ冷めた見方も少なくない様ですが、それは流通、消費者も含めた酒造業界にとっては、むしろ健全な事だと思います。けれども自分たちで酒を造るようになって三年めの今年、やっと金賞が取れ、まずは目標の一つがクリアできて良かったと感じています。なにより一生懸命酒を造っている、若い蔵人には目に見える形で結果が出ることが、自信になりますし、会社全体の志気も上がります。三年酒を造ってみて、だいぶ造りの要点はつかめたとは思いますが、まだまだ品質的に改善したい所は沢山ありますので、金賞は一つの通過点として、蔵全体の酒のレベルをさらに上げるよう努めてきたいと思います。今後とも、「杉錦」にさらなるご愛顧をいただきます様に、よろしくお願い申し上げます。


 
鑑評会の話 (静岡県鑑評会について)


 3月13日に静岡県の清酒鑑評会が沼津工業技術センターでおこなわれました。


 静岡県の清酒鑑評会は他県で開催されるものと較べ審査に特徴がありますのでそこからお話します。

  

  特徴1審査方法:

 一般的に清酒の鑑評会と呼ばれるコンクールでは、審査する酒をグラスあるいはきき猪口にそそぎ、銘柄がわからない状態でずらりと並べておいて、審査員は移動しながら酒をきき酒していきます。審査員は行ったり来たりも出来ます。この方法ですと、審査する酒の温度やグラスに入っている酒の量も変動することから、静岡県ではより厳密で公平な審査を行うため3年前より以下のような方法に改めました。

 審査をする部屋は、沼津工業技術センターにある麹室で室温は20度です。酒は隣室の冷蔵庫で冷やされていて、確か14度だと思います。

 今年の審査員は沼津工業技術センターの河村先生、大石先生、名古屋国税局主任鑑定管の高原先生、日本酒評論家の松崎晴雄さん、東京農大醸造学科の進藤斉先生の5人です。審査員は各自テーブルを前に座り横に“吐き”が置いてあります。審査する酒は、5点ずつガラスの清酒グラスに入れられて係員が隣室から運んできて各審査員の前におきます。5点の審査が終わると下げて、次の5点がでてきます。この審査方法は手間が従来のやり方に較べると非常にかかりますが、一定の条件下で審査ができるように配慮されています。


  特徴2審査方針:

 平成15年度、静岡県清酒鑑評会開催要項の審査方針として、
()静岡県清酒鑑評会出品酒としてふさわしいものは、調和のとれた香り(酢酸イソアミルとカプロン酸エチルのバランスのよいもの)で、味はきれいで丸い酒である。」とあります。

 また、全国の清酒鑑評会では酸度1.1以上ないと出品できませんが、静岡県では酸度の制限はありません。部門は、吟醸の部と純米の部の2部門です。どちらの部も実質的には、精白歩合が35%から40%のいわゆる大吟醸クラスの酒が出品されます。


 ここで吟醸酒の命である香りについてお話します。酒の香りは、たいへん多くの成分から構成されていますが、吟醸香といわれる香りの成分は主に、2種類の成分が主役といえます。

 一つが、酢酸イソアミルでこの成分はバナナのような香りと表現され、わりと穏やかですっきりした香りと言えます。もう一つは、カプロン酸エチルという成分でこちらは洋なしの香りといわれますが、どちらかというと派手で奥がふかく、くどい感じがします。

 吟醸酒の造りが非常に盛んになった15年くらい前は、吟醸酵母の主流は協会9号という熊本県の“香露”の蔵から分離された酵母で、この酵母のつくる香りは酢酸イソアミルが主でカプロン酸エチルは3PPMくらいです。静岡県の酒が全国の新酒鑑評会に大量入賞して、一躍全国の注目を集めた時の酵母も、この協会9号系の静岡酵母で香りの主成分は酢酸イソアミルでした。

 ところがその後、吟醸造りの為の酵母の開発競争が盛んになる中で、セルレニン耐性酵母と呼ばれる新しいタイプの酵母が開発されました。この特許は月桂冠がもっています。この酵母は9号系の酵母では、3PPMくらいしか出ないカプロン酸エチルが6から8PPMも出ます。一方、静岡酵母のHD−1では、酢酸イソアミルは5PPMくらいでるが、カプロン酸エチルは3PPMくらいしか出ません。その結果、この酵母を使うと酒の香りの印象がガラリと変わり、香そのものも強いインパクトがある為、多くの酒を集めておこなう鑑評会では、協会9号系の酵母で造った酒は印象がうすくなり、全国新酒鑑評会をはじめ全国の国税局や県の鑑評会でも入賞酒のほとんどが、このセルレニン耐性酵母で造った酒が占めるようになってしまいました。この酵母にはアルプス酵母、協会86酵母、明利310酵母といった種類があります。

 セルレニン耐性酵母で造った酒はその華やかな香りで、日本酒に縁のなかった人たちに、従来の日本酒にはないイメージを与え、日本酒のファンを広げたという見方がある一方、次第に欠点も広く認識されはじめています。

 欠点の一つは、カプロン酸エチルが華やかである裏返しとして、飲み続けると鼻についてくどく感じたり、料理との相性で合わせずらい面がある事。もう一つは、カプロン酸エチルと同時に生産されるカプロン酸が、いい香りではない事です。カプロン酸エチルの華やかな香りの影にかくれて、一見めだたないのですが、濾紙の臭いのような紙臭といわれる香りがします。また、静岡県の河村先生がよく使う表現でドブ臭(ドブの腐った臭い)という、くどい臭いがします。特にこの酵母で造った酒は熟成すると悪い香りが目立ち始め、秋から一年位経ってくるとビニールのような臭いがして、飲みずらくなります。その為、春におこなう鑑評会では良い成績をとれるのですが、秋に行う鑑評会では苦戦するようです。

 静岡県でも全国鑑評会の入賞酒の主流が、このセルレニン耐性酵母の酒に移行するのをみて、金賞取り競争に負けないようにと、数年間、静岡酵母としてセルレニン耐性酵母を県内の蔵元に配布した時期もありました。しかし、実際にこの酵母で造った吟醸酒の香りが変化してクレームが生じたりした事から、河村先生は考えを改め静岡酵母としてのセルレニン耐性酵母の配布は、2、3年で中止となりました。それでも5年前までは、静岡県の鑑評会でも出品酒の主流はカプロン酸エチルの強いものでしたが、河村先生はさらに進んで「このような酒を造っていたら、日本酒の需要は伸びないし、日本酒つくりの技の核心である麹つくりは堕落し、日本酒の文化の為にならない」(*注カッコの中は私が解釈して書きました。)との考えから、静岡県の鑑評会では4年前からカプロン酸エチルの強い酒は入賞しない審査基準となりました。これは全国でも、初めての取り組みです。

 また、静岡酵母は香りが高いという評判は、一般のみなさんにだいぶ定着してきましたが、現在静岡酵母で造っている、典型的な静岡酵母の酒というのは、香りは穏やかで、すっきりしていてセルレニン耐性の他県の酵母で造った酒と較べると、むしろ香りは低いといえます。そのかわり飲み飽きせず、料理との相性も広く良いというのが特徴です。

 この結果、全国の新酒鑑評会や名古屋国税局の鑑評会で、入賞しやすいカプロン酸エチルの強い酒は、静岡の鑑評会において絶対に入賞できません。また、静岡県の鑑評会で上位をとれるカプロン酸エチルは低く、酢酸イソアミルの穏やかな香りの酒は全国、名古屋では香りの低い酒とみなされてしまい入賞できません。

 良い吟醸酒はどんな酒かという問いに答えて、万人を納得させる答えはないと思います。しかし、香りについて言えば、現在のカプロン酸エチルの強すぎる酒は見直される方向にいくように見えます。醸造家も最初は、セルレニン耐性酵母の香りに驚いて「すごい酒が出来るようになった。」と思ったものですが、強い香りはやがて飽きてきます。そして、その欠点に気が付き始め、だんだん見方が変わってきたように思います。一般の日本酒愛好家や酒流通業界の皆さんも、同じように最初は驚きますが、やがてその香りにそれほど価値があるのか?と感じるようになってくると思います。


 さて、静岡県の鑑評会と全国、名古屋の鑑評会の審査基準が異なることについて、蔵元がどのように対応しているかというと、蔵元によって色々です。まず、カプロン酸エチルの強い酒を造るのは完全にやめてしまった蔵元がいくつかあります。全国の鑑評会では入賞が非常に困難ですが、全国の金賞には頼らず品質の良さで、お客様からも高い評価を得ている蔵元さんたちです。次にカプロン酸エチルの酒の欠点はわかるが、全国の金賞も取りたいし、市場ではそういう酒の需要もあるので両方造るという、現実派の蔵元さんたちです。私もその一人で今年は30本のモロミを仕込みましたが、1本はセルレニン耐性酵母で造りました。静岡の鑑評会には静岡タイプの酒を、名古屋、全国にはそれようのタイプの酒を出品して賞も取りたいという考えです。しかし、大吟醸を1本しか仕込まない蔵元さんの場合は、全国を狙うか静岡の入賞を狙うかで二者択一の選択をしなければなりません。


 鑑評会の解説をながなが書いてしまいましたが、ここから杉錦の鑑評会出品酒の話を致します。

 鑑評会出品用の酒も、その為だけに極端に小さい仕込みをしても、いい酒はできないので市販を想定して造ったモロミより、出品用の酒を“しずく取り”という方法で取っています。しずく取りは、発酵の終わったモロミを酒袋に入れて、自然にたれてきた酒を一升びんや斗びんに取ったものです。圧力をかけた酒とくらべて味が軽くてきれいで香りもいいようです。もろみは、前述したように酢酸イソアミル主体の酵母として静岡NEW−5で一本。カプロン酸エチル主体の酵母としてM310酵母で一本たてました。M310は出品用以外に酒はそんなに必要ないので、480kgの吟醸モロミとしても小さくしました。

 静岡の鑑評会では、カプロン酸エチルの強い酒は評価しないわけですが、実際はカプロン酸エチルの全くない吟醸酒というのは存在せず、少量のカプロン酸エチルの存在が酒に華やかな印象をあたえて審査員がいい点をくれる可能性もあります。そこで昨年の静岡県の鑑評会では、静岡酵母のNEW5の酒80%に、カプロン酸エチルの出るM310の酒を20%ブレンドして出品したところ、7番目というまずまずの成績で入賞できました。

 今年も同じ手を使ってみようと考え、静岡NEW−5の酒100%、90%、80%、70%の比率に対して、M310の酒を0%、10%、20%、30%ブレンドした酒を調合してみました。

 鑑評会の前に“杜氏もちより会”といって、予選的な会が開かれます。この会ではその年の酒の動向を探り、本番の鑑評会に出品する酒を決定する参考にする為、酒を持ち寄りきき酒をおこないます。審査員には県の河村先生、大石先生をはじめ名古屋国税局の先生、県内蔵元の技術者があたり、実際に点数をつけ、寸評を書いて酒を評価します。審査も吟醸の部は2審までおこないます。この会ではM310を1
0%ブレンドした酒が、花の舞、千寿とならんでトップの点数を取れました。

 カプロン酸エチルのクセには厳しい河村先生の評点も1点と良かったので、本番の鑑評会もこの酒を出せば上位入賞は堅いだろうと、浮かれた気分になりました。同じく純米の部も、M310を20%ブレンドした酒が上位でした。実際の鑑評会には吟醸、純米各部門とも2点の出品ができますので、この時上位の酒と全く同じ酒を安全パイのつもりで出し、もう一点はM310の比率を5%ほど高くして出してみました。結果は、純米の部は入賞しましたが、本命の吟醸の部はよもやの落選でした。もちより会の成績が良かったので、これには正直がっかりしました。

 かつて杜氏さんがいた時、鑑評会で落選するとがっかりして肩を落としていましたが、その気持ちがよくわかります。なんで、ダメだったのか不思議に思いまいしたが、一般公開で順位ごとに並んだ酒をきき酒してみて納得しました。

 上位の酒は酢酸イソアミルのバナナの様な香りがあり、カプロン酸エチルはほとんど感じられませんが、私の酒の前後あたりの酒はカプロン酸エチルが少し気になります。実は“杜氏もちより会”には県鑑評会で上位に入った、カプロン酸エチルのでる酵母を全く使わない蔵元さんたちの酒が出品されていませんでした。それで“その場“では比較的にカプロン酸エチルのある酒でも、いい酒として高得点がとれたのです。しかし、本番では酢酸イソアミルがより豊かでカプロン酸エチルの少ない酒が多く出品されていたので、カプロン酸エチルを感じる酒はより厳しく評価された様です。もう一つ上位の酒は、同じ静岡酵母でもNEW−
ではなくHD−が多く使われていたみたいです。

 HD−1はカプロン酸エチルが低いだけでなく、うまく使えば酢酸イソアミルが5から6PPM位と非常によく出るようです。これに対してNEW−5は酢酸イソアミルが3から4PPM位しか出ません。NEW−
はHD−1と較べ発酵力が強く、泡もほとんど出ないので使いやすい面があります。河村先生によれば、一点クッキリ型のツキハゼ麹にはHD−1酵母が良く、よりハゼのまわった麹にはNEW−5を使ってきたとの事です。自分で酒を造り始めるについて、初心者にはHD−1よりNEW−5のほうが、造りやすいと考えてHD−1は使わずにきましたが、今年の結果をみて静岡の鑑評会では来年からHD−1で挑戦してみようと思います。


 さて、名古屋国税局の鑑評会も吟醸と純米の2部門ですが、こちらはカプロン酸エチルの華やかな香りの酒でないと入賞が難しいのです。こちらには両部門ともM310酵母100%の酒を出品しました。両部門あわせて1社3点の出品ができるので、吟醸部門には生酒とビン火入れで1点ずつ、純米には生酒で出品しました。結果は吟醸部門の生酒が入賞しました。

 一般公開のきき酒にいってきましたが、静岡とはうって変わって、カプロン酸エチルの強い酒が並んでいます。中にはカプロン酸エチルのない穏やかな香りの純米酒で、うまいと思う酒がありましたが、入賞はしていませんでした。私の出した吟醸部門の生酒と火入れ酒をきき較べると生酒の方が少し甘く軟らかく感じ、香りもすこし豊かなような気がしました。通常、4月に出品する全国新酒鑑評会は火入れで、名古屋国税局は生酒で出品しますが、この時期は生酒のほうが少し有利なのかもしれません。



 4月16日到着で広島に全国鑑評会出品酒を送りました。

 こちらもM310酵母100%の酒です。今年の酒はカプロン酸エチルが6PPMとそう高くなく、あまり目立つ酒ではないので、どういう評価になるかと少し心配です。
けれども、入賞しても落選しても自分で酒を造るようになってから、鑑評会が楽しみになりました。入賞できないと、やはりがっかりはしますが、一般公開や表彰式に出掛けて、いろんな人と意見の交換をしたり、教えてもらったり、おしゃべりして、いろいろ考えて、また次の作戦を考えるのが楽しみです。

 また、鑑評会も大事ですが、鑑評会に出さない残りの99.9%の酒のでき具合がより大切だと痛感しています。